LOGIN「マーチャン様、本日は龍神の館にお越しいただき、誠にありがとうございます」「うむ。約束通りきてやったぞよ」 あ、プレオープンセレモニーの時の小さなお客様だ! 約束してたっけ⁉ 今日も鮮やかな緑色のマントをすっぽりかぶっちゃって……ちょっと怪しい人よね。「これはこれはマーチャン様~♡ いつもご贔屓にしていただきありがとうございます♡」 ソフィーさんが大歓迎、といった具合に膝をついて両手を広げる。幼児を出迎えるパパ? 貴族じゃないけれど常連さんなのよね、きっと。 あれ? でもお連れの方は……?「うむ。今日も楽しませてもらうぞよ」「本日からリニューアルオープンですから、今までよりも一層ご満足いただけると思いますわ。本日は3階の特別な個室をご用意しておりますの。オホホホホ」「うむ。プレオープンのパーティーは大変満足じゃった。今宵も期待しておるぞよ」 上機嫌なのは良いけれど、子どもなのにまるで仙人みたいなしゃべり方ね。店に入ってもマントをぜんぜん脱がないし。「さあさ、3階までお運びいたしますね。失礼して~」 ソフィーさんがマーチャン様を片手で持ち上げると、なんとそのまま自分の肩に乗せる。マーチャン様の体がいくら小さいからって、それは失礼には当たらないの? マントの色的に、まるでオークの肩に止まるオウムみたい。「ほう? おぬしもローラーシューズとやらが使えるのか。めいっぱいスピードを出すがよいぞ!」「言いましたね? 後悔しても知りませんからね。飛ばしますわよ~!」 オークとオウムが笑い合いながら階段を登っていく。なんかすっごい仲良さげ……。ていうか、これは何を見せられてるの? ディスカバリーチャンネル?「あ、置いてかれた……。ほら、あなたたちもぼーっとしてないで、準備にとりかかるー! VIPのお客様をお待たせしないよー!」 わたしの隣で階段を眺め続ける天使ちゃんたちにはっぱをかけて、わたしも後を追うことにした。* * * なんとか3階のVIPルームの入り口で2人に追いつく。「本日のコース料理ですが……3名様でご予約をいただいておりまして……お連れ様をお待ちしてからスタートなさいますか?」 普通にお1人のまま部屋まで来ちゃってるけど、待ち合わせはお店の中なのかな?「アリシア、マーチャン様はこのままで大丈夫よ。すぐに始めちゃってちょうだい
「いらっしゃいませー♪ 龍神の館へようこそー」 18時30分。 予定通り夜営業開始。 とは言っても、予定通りでない部分もあった。開店前からお店の前にたくさんの行列ができてしまい、急きょ整理券を配布することになってしまったわけで……。 ローラーシューズショー見学用のチケットは席代をチャージ制に。 お食事だけの席は60分制にしてもらった。あとは今日だけテラス席も開放して、そっちでも飲食を楽しめるように突貫工事!「危なかったー。天使ちゃんたちが気づいてくれなかったら、また昼間の二の舞を踏むことになってたよ」「ホントよね。でも夜のテラス席もなかなか乙なものね。アリシアの用意してくれたライト、ステキだわ~♡」 ソフィーさんも喜んでくれていた。 各テーブルにランタンを設置してお料理を上から照らすようにしてみましたー。必要以上にライトをつけないようにしたほうがいいよね。せっかくの屋外だし、星空も楽しめるようにね。「それにしてもちょっと意外です」 わたしはぼそりとつぶやく。「どうしたの? 何かまた想定と違ったのかしら?」「えーとですね。お客様の層が意外だなーと。これまでの傾向だと、失礼ですが、もうちょっと裕福な方々が多くお見えになるのかと思っていたので……」「そうね。たしかに。こうしてみると昼間のお客様とそう変わらないかもしれないわ……。ご家族連れも多くみられるし。もしかしたら貴族の方々は様子見をされているのかもしれないわね」 ソフィーさんが腕を組み、分析する。 といっても、胸の筋肉がパンパンで、胸の下に手を添えるだけになっているのがちょっとかわいい。「様子見ですかー。ガーランド伯爵のプロモーションに食いついたのは庶民の方が多いのですね。ガーランド伯爵の支持者はそっちに偏っているのかな?」「あなた、するどいわね……。セドリックは一般の市民をとても大切にしているから、逆に近隣の貴族受けがあんまり良くないのよね。でも王宮とはうまくやっているから大丈夫だとは思うのだけれど、いつもハラハラしちゃうわ……」 周りに聞こえないように配慮しているのか、ソフィーさんが小声でつぶやき、ため息をついた。 政治の話かあ。あっちを立てればこっちが立たず。大人の世界は難しいですなー。「うちのお店をうまいこと利用してほしいのだけれど、肝心の貴族が寄り付かなくなってし
「みなさん、昼営業、大変お疲れさまでした! なんと! 初日、販売目標達成です!」 バンザーイ! みんな拍手拍手ー! イエイエイエーイ♪ 天使ちゃんたちも手ごたえがあったのか、いつにも増して活気づいている。「これはホントにみなさんの努力の成果です! ガーランド伯爵の粋な計らいで営業開始から長蛇の列ができても、みなさんが必死にさばいてくれたおかげです! ホントにお疲れさまでした!」 慣れない機械を使わせたのに、がんばって対応してくれたオーダーの天使ちゃんたち。 試食を配ったり、列の整列やお客様トラブルの対応をしてくれたプロモーションの天使ちゃんたち。 まさかのストック切れになりそうなところを、しっかりペースを守って追加の料理を作ってくれた調理の天使ちゃんたち。 みんなみんなお疲れさまだよ。「予想をはるかに超える人数のお客様が来店されて、みなさん満足そうに帰っていかれましたね。きっとお持ち帰りしていただいた料理で、さらに次のお客様を呼んでくださることでしょう」 もうね、これは平民たちの胃袋はつかんだといっても過言ではないのではないでしょーか!「そして今日、陣中見舞いとしてきてくれたロイス嬢! なんと裏ではガーランド伯爵のネームバリューを使って号外まで配布してお店のプロモーションをしてくれていました。さらにさらにこの類まれなる美貌を使ってお客様を虜にして次の来店を約束させるという反則ギリギリの技まで! はい、みんな拍手ー!」 盛大な拍手、そして指笛。ちょっとしたお祭り騒ぎだよ!「ちょっとアリシア? 私、ぜんぜん褒められてる気がしないのだけれど⁉」 ロイスが真っ赤になって抗議の声を上げる。 そんなロイスの態度に、天使ちゃんたちがどっと沸いた。あー、なんかお店、とっても良い雰囲気だねー。「えー、ほめてるよー? まさに適材適所ー。ずっとロイスがお店の前に立っててくれたら、販売目標倍にできるかも?」「それはありがたいわね♪」 ソフィーさんもホクホク顔。「もう、みんなして私のことをからかって! 知らないんだから~」 プイと後ろを向いてしまう。耳まで赤いロイスさん。あらあら♡ かわいいお顔をこっちに見せて♪ それにしてもロイスはすっかり打ち解けたねー。このお店の天使ちゃんたちは、貴族の方と接する機会も多いけど、相手の身分で変に壁を作らないの
「え、どうしました⁉ お客様同士のトラブルですか⁉ 列に割り込みが?」 おぅ……並んで物を買うという習慣は、まあない人もいるよね。 いきなり長蛇の列を前にしてガマンできるかって言われると……。「でも、ちゃんと後ろに並んでいただけるように説得を……試食も忘れずにお願いします」 そんなこんなで、ホールの天使ちゃん、改め、オーダーの天使ちゃんたちはてんてこ舞いだ。「お店が盛況すぎる! まだ開店して1時間も経ってないのにどうしたんだろ、これは⁉」 うれしい方向に予想外だよ。 最初は冷ややかな視線を浴びつつ、「あれ、試食うまいぞ?」的な感じで少しずつ客足が伸びていくイメージでいたのに、いきなり長蛇の列、だと? なんなら開店前からお店の前にけっこう人がいたのはなんでだ……。「暴君、たぶんこれっすよ」 おい、セイヤー口の利き方に気をつけろよ! 列の最後尾まで吹っ飛ばされたいのか?「何? えーと≪龍神の館が今日から新装開店リニューアルオープン。料理のラインナップも一新! プレパーティーにご出席された城主ガーランド伯爵も『こんな料理、王宮でもお目にかかれないだろう。まるで舌が蕩けるようだ≫と大絶賛。その料理の数々が、なんと庶民にも手が届く安価で提供されるとのこと。昼間は店頭販売される。キャンペーン期間中は行列必至だ!』って号外新聞⁉」 なにこれ? こんなプロモーションわたし知らない……。「街で大量に配ってるっす。伯爵の騎士団の人たちが……」 なんで伯爵の騎士団がそんなことやってるの⁉ え、ソフィーさんどういうこと⁉「わ、私も聞いてないわよ? セドリックはサプライズ好きなのよ。ノリノリでやってそうだわ……」 ソフィーさんが肩をすくめて苦笑している。 あの人、そういう感じなの? ちょっと意外だわ……。サンタクロースのコスプレして枕元にプレゼント置いちゃうタイプの人なんだ……。 と、店の前に馬車が止まる。「アリシア、遊びに来たわよ!」 馬車の中から飛び出してきたのはロイスだ。「ロイスー! わざわざ来てくれたの⁉ 見てみてー、リニューアルオープン初日から大盛況よ!」 見よ、この長蛇の列。 超高速でオーダーを捌いてもどんどん列が伸びていくのよー!「私がお父様に頼んで宣伝してもらったのよ。お父様の名前も有効活用していかないとね♪」 ロイスのおかげ
「今日から朝礼なんてものを始めようと思います。みなさんおはようございます!」 おはようございます! 100人の天使ちゃんたちが一斉に挨拶をする。 おお、壮観だね。これがみんなわたしの言いなりに……。ソフィーさんの気持ちがちょっとわかってしまう自分が怖い……。「このあと昼12時から当店『龍神の館』はリニューアルオープンします。いよいよ12時開始です。当店初の昼営業を始めることになります。と言っても昼間はテラスだけを開放してテイクアウト料理のみの販売なので、お店の中にお客様が入ってくることはありません」 まずは平民向けの施策からスタートだ。 テイクアウトの昼営業については、これまでまったくプロモーションを行っていない。つまり今日からが勝負だ。「初日から7日間はテイクアウト料理の大規模キャンペーンを展開します。『1個買ったらもう1個おまけでついてくる』キャンペーンです!」 1個はその場で食べてもらう。そしてもう1個を持ち帰ってもらい、そのおいしさを家族や友人などに宣伝してもらいたい。そういう主旨のキャンペーンだ。 ホントはもう1つキャンペーンをやりたかったのだけれど、ミィちゃんに固く止められちゃったからなー。 わたしが考えていたのは『恋人・夫婦限定! 仲良くミィちゃんのフィギュアと写真を撮ってお店の前に貼ったら、好きな料理を1品タダ』キャンペーン。 良いと思ったんだけどな……。愛の女神のアピールにもなるし、お店の人気も上がっていくし……。でもインスタントカメラは人前に出しちゃダメって……。だけど諦めない! フィギュアはお店のほうが落ち着いたら、量産して絶対販売するからね!「オホン。今日の販売目標は、ナゲットクン200食、Dチキ200食、フライドポテト200食、イチゴクレープ100食、コーラ100杯、ソーダ100杯、オレンジジュース100杯、すりおろしリンゴジュース50杯(これだけ限定品のためおまけ対象外)です。今月の販売ラインナップはこれでいく予定です」 それぞれおまけは別カウントで。 各料理は販売目標の3倍をストック済みだ。 ガーランド伯爵の出資によって、巨大なアイテム収納ボックスも設置できた。これがあれば熱々、そして冷え冷えの料理が即座に提供できる。アイテム収納ボックス内は時間の概念がないため、収納中の料理は腐敗せず廃棄も出ない。料理店
「みんな、お疲れさまだったわね」 ショーを終えたわたしたちを、ソフィーさんが出迎えてくれる。「アリシア~。もう! あなた、ずいぶんやらかしたわね。ロイス嬢まで巻き込んで~」「でも最高だったでしょ? ロイスもね?」「ゾクゾクしたわよ♪」「私も、とっても楽しかったです!」 ロイスとソフィーさんと3人で顔を見合わせて笑う。 今やらなきゃって思ったら体が勝手に動いていたの。だからぜんぜん後悔なんてしてないわ。ねー、ロイス! 楽しかったよねー!「ソフィー、今日はすばらしかったですわよ」 貴族の方が近寄ってくる。「あら~、閣下♡ わざわざ遠方からお越しいただきありがとうございますぅ♡」 え? 誰? 中性仲間? という顔をしていると、「ビーリング伯爵よ」とソフィーさんが小声で教えてくれた。 ああ、この人が金づ……もう1人の出資者候補の!「あらあら、さっき踊っていた子たちじゃないの~。どっちがソフィーの隠し子?」「ご冗談を♡ 2人とも私のかわいい子よ♡ シュトゥルヒに運んできてもらったんですよ♡」うへ、中性オヤジギャグ……。やだよ、シュトゥルヒ――コウノトリに運んできてもらった赤ちゃんとか。見ればロイスもわたしと同じ、げんなりした顔をしていた。「汝、アリシアと言ったな」 と、後ろから呼びかけられて慌てて振り返る。鮮やかな緑色のマントを深々と被ったお客様が立っていた。 マントのお客様はわたしくらいの身長しかない。でも雰囲気は子どもって感じじゃないわね。「あ、はい! アリシア=グリーンと申します! 本日はお越しいただき誠にありがとうございます」 どんな方でもお客様よー。わたしー、気をつけてー! よそ行きスマイルスマイル♪「ロイス、この方ご存じ?」と小声で確認してみたけれど、ロイスは首を振った。うーん、招待客の誰かだと思うんだけど、ロイスが知らない人かー。「我は満足したぞよ」「それはありがとうございます! 今後ともぜひご贔屓にしてください!」 おお、小さいお客様も喜んでる! ど派手なパフォーマンスして良かったね。「贔屓にか。それが望みか?」 変なこと聞く人ね?「ええ、そうですね? 今度はご予約いただければもっとゆったりとショーやパフォーマンス、そしてお料理もコースでお楽しみいただけますのでぜひ!」「良かろう。また来るぞ
わたしのステータス、LUK≪幸運≫を上げただけなのに、どうしてこうなった?-------------------------- アリシア=グリーン 種族:転生人族 Lv.10 HP:3720 MP:1860 STR≪筋力≫:220 VIT≪体力≫ :181 DEX≪器用≫:183 AGI≪敏捷≫:223 INT≪知力≫:301 LUK≪幸運≫:150 スキル:なし --------------------------「ミィシェリア様……ステータスがおかしくなっちゃったんですけど」「とくにおかしいところはありませんよ。アリシアはLUK
「そのポイント、ちょっと待ったー!」「何ですか? 何かおかしなことがありましたか?」 ミィシェリア様が、わたしの頭のほうに伸ばした手を止める。 危ない。このままポイントを付与されてなるものか!「ミィシェリア様~。わたしの前世の記憶ってちゃんと見てくれましたあ?」 交渉だ! ここでがんばらないと!「はい、もちろん確認しましたよ。穏やかな環境でしたので、標準的なポイント計算で――」「そうじゃなくて! わ・た・し・の! 個人の記憶ですよー。ひどいものでしょう? 泣けちゃいますよね……。何一つ良いことがなくて……人生ハードモードだった上に暴走した車に轢かれて21歳(童貞)の若さで命を
「伝えにくいことって……」 はっ! もしかして、この間ボール遊びをしていて教会のステンドグラスを割ったから、罰が与えられる⁉「いいえ。私は女神ですから、そのようなことで怒ったりはしません。ですが、あなたはきちんと謝ることのできる大人になれると良いですね」「はい……ごめんなさい」 黙って逃げてごめんなさい……。「許しましょう。ですが、伝えたいのはそのことではありません」 あれ? ミィシェリア様って、さっきわたしの心の声に返事しなかった?「ええ、あなたの心の声は全部聞こえていますよ。私は女神ですから、信徒の心の声を聞くことができます。神と子の間に隠しごとはできませんから、裏表なく、清
「アリシア=グリーン。10歳のお誕生日おめでとうございます」「あ、ありがとうございます……女神……様」 わたしは頭を垂れ、跪いたまま冷や汗ダラダラだった。 やばい。女神様の名前、度忘れした……。 なんだっけ……。 ここパストルラン王国では、七神の女神が信仰されている。10歳の誕生日に七神いずれかの女神に礼拝し、洗礼を受けることになっているのだけど、だけど……。 わたしが洗礼を受けるのは……えっと、愛の女神様なんだけど……名前が……そうだ、ミィシェリア様! あっぶない、思い出したー!「女神ミィシェリア様。ご機嫌麗しゅう」「もし? 聞いていますか? あなたの名前はアリ







